いろは歌に代表される、「あ」から「ん」までのかな文字を1回も重複させることなく、かつすべてを使い切ることで有意の日本語表現を形作ることば遊び。同種のことば遊びは英語を始めとした各言語に存在し、一般に「パングラム」と呼ばれます。でも日本語固有の呼び名がありません。歯がゆさを覚えた私は、その原理がパズルと同じであることから、「かな文字のパズル」略して「かなパズル」と名づけました。続きを読む
かなパズルの第一の眼目は、「自然な日本語であること」に尽きます。
本やネット、会話やニュースで目にし耳にする、ふつうに理解できるふつうの日本語表現。かな文字を過不足なく用いるという条件下にあってはその「ふつう」を実現することがいちばん難しく、それをこそ目指して歴代の作り手たちは頭を悩ませてきました。けれども大半は行き詰まり、ことばづかいがおかしかったり文意がちぐはぐ・曖昧で主旨がはっきりしなかったりと、母語話者が首をかしげるような無理がどこかしらに出てしまいます。古来難解なことば遊びとされる所以であり、文語でも口語でも自然な日本語に整っていると言い得るものは現在に至るまでわずかしかありません。かのいろは歌でさえ語法に難があります。
「ふつう」が目標というのも面白いですが、裏を返せば、このことば遊びで問われているのは日本語の基礎部分ということです。従って、例えば口語なら日本語学習者用の教材に載せても通用することが1つの到達点になるかもしれません。日本語を学んでくださる外国の方に変な日本語をお伝えするわけにはいきませんから。そして、国語の教科書に掲載されるほど整然とした内容であれば理想でしょう。
ちょっとしたきっかけから作り始めた私が目指すのは、これまでの歴史を明確に塗り替えること。それはつまり、適正なことばづかいと明瞭な文意とを両立させるという、このことば遊びの基本かつ最大の難関をできるだけあっさりと乗り越え、具体的な内容面の充実にまで踏み込んでいくことです。”とりあえず日本語の体をなしているね” というレベルではなく、読み応えがあり修辞的なことも含めいち日本語表現として見るべきところがあるもの。その歴史からすれば、二重にも三重にも困難なことでしょう。そもそも整然とした日本語表現を織りなすことさえ容易でないし、毎回その水準の作品を生み出せるはずもありません。でも、いやしくも「かなパズル」と命名したのだから、パズルと同様に隅から隅までクリアな、しかも素敵な絵柄を1つでもたくさん描き出したい。
作品は文語と口語のどちらも用意しています。
当初は文語で作り始めたのですが、現代の多くの人に文語が敬遠されがちなこともあり、途中から口語をメインにするようになりました。口語ならばだれもが内容を理解し、楽しみ、出来を吟味することができますよね。
いっぽうで、私自身は口語に勝るとも劣らず文語が好きです。なんといっても文語は美しい。こちらも楽しんでお読みいただきたいので、文語で作るにあたっては口語の感覚でも分かりやすいように心がけ、難しいところには解説を付します。苦手だという方にもぜひご覧いただいて、文語表現の素晴らしさを感じていただければ。そのためにも妥協は一切せず、文法的な正確さは言わずもがな、自然な古文として通じるように努力します。古典に親しんでいる方は容赦なくチェックなさってください。
かなパズルは、日本語にだけ存在する1つ1つ形の異なる46――文語は48――コの個性的なピースを、さまざま工夫して組み合わせることにより生み出されます。色とりどりのパズルをご覧になることで、日本語の蔵する豊かさや奥深さ、そして可能性に改めて目を向けていただければ一層うれしいです。
かなパズルの世界へようこそ。