やはりイチロー

  • ベースボールの 申し子 誰? やはりイチロー 弛みなく 練磨重ね きわめて無碍に ヒットを得 およそ焦らぬ
  • べーすぼーるの もうしごふー やはりいちろー たゆみなく れんまかさね きわめてむげに ひっとをえ およそあせらぬ
  • ベースボールの申し子は誰? やはりイチローだ。弛みなく練磨を重ね、打撃技術を究めることで頂上を窮め、極めて自在にヒットを得る。そして、どんなときにもまったく焦らずつねに冷静だった。

日米の球史に燦然と輝く足跡を残したイチローさんです。

今年初頭、日米両方での野球殿堂入りを、どちらも有資格初年度に高い得票率で果たされました。とくに大リーグではあと1票で満票だった――満票を逃した――ことが話題になり、覚えている方も多いのではないかと思います。
現在、野球界では大谷翔平選手が圧倒的な存在感を放っており、私もかなパズルを作成していますが、世代が近いこともあって個人的に最高の選手といえばイチローさんをおいて考えられません。
大リーグ時代だけを見ても、2004年に成し遂げた262本の年間最多安打記録を筆頭に、通算3000安打以上、10年連続200安打に10年連続ゴールデングラブ賞受賞と、超一流であることを物語る数字が並びます。また、シーズン中の故障がほとんどないからこそ達成できるものばかりで、その自己管理能力の高さにプロフェッショナルとしての凄みが感じられますね。

内容と語法について。
天才と呼ばれることを嫌ったイチローさんですが、天賦の才に恵まれていたことは疑いありません。幼少期から群を抜き、野球に関することはなんでもできたといいます。それこそ野球の――「ベースボールの」――「申し子」という表現がふさわしい。
イチローさんがおっしゃりたいのは、才能があっても地道で徹底的な努力なしに実を結ぶことはないということなのでしょう。
じっさいに「弛みなく 練磨」を「重ね」たからこそ、歴代有数の名選手になられました。

走攻守の全てにおいて高みに達されていたイチローさんですが、その代名詞はなんといってもヒットです。
全盛期のバッティング技術が大リーグ史でもトップを争うことは、さきに述べた年間最多安打記録が証明しています。この記録が破られる日は来るのでしょうか。
ところで、フライ気味に打ち上げたボールが野手と野手の間にポトンと落ちる、いわゆるポテンヒットは見栄えのするものではありません。
球威に押された詰まり気味のゴロヒットもそう。
イチローさんもしばしば放っていましたが、なんと意図的に狙う場合が少なくなかったのだとか。
つまり、単なる打ち損じではなく、相手の守備位置を瞬時に計算し、ヒットになる確率の高い場所へボールを運んでいたというのです。
そう聞けば、どれほどバットコントロールが精妙かつ自在であるかが分かろうというもの。
また、ワンバウンドしたボールを打ち返したこともあるように、ふつうなら手を出さない低めのボールをゴルフスイングのようにすくい上げてヒットにする姿もファンの記憶に刻まれているでしょう。
さらに、「イチローがホームラン競争に出場すれば優勝する」というのがチームメート間での共通認識でした。大リーガーのなかでは非常に小柄で華奢な身体つきなのにもかかわらず、バッティング練習では誰よりもボールを飛ばしていたのがその理由です。
この事実からも、並外れたミート技術をもっていたことが伝わるでしょう。

以上のことを確認して、「きわめて無碍に ヒットを得」となります。
「きわめて無碍に」の「きわめて」をひらがなにしたのは、「究めて」と「窮めて」、および副詞としての「極めて」と、3重の掛詞になっているからです。
「究めて」は「学問を究める」というようにその本質を突き詰めること。イチローさんの姿勢がいちスポーツにとり組むレベルを超えていことは、多くの方が感じていたと思います。「野球道」と「道」を付けるほうが適しているような、古の侍を思わせる求道者の如き振る舞いでした。その姿がストイックに映り、メディアへの対応に批判の目が注がれることもありましたね。
「窮めて」は技術などの奥秘に達すること。全盛期のイチローさんをそう評しても過言でないはずです。
ということで、副詞の「極めて」を含めた「きわめて」が3重の掛詞として無理なく機能していることを、訳とともにご確認ください。
なお、2つ目と3つ目の「きわめて」はそれぞれどちらの漢字でもかまわないようです。ここでは意味合いの違いをはっきりさせるために書き分けました。

「ヒットを得」に関して、ふだん「ヒットを得る」とはあまり見聞きしないでしょう。野球に関連する書籍か雑誌記事でこの表現を目にしていたため用いたのですが、なにぶんずっと以前のことで出典を探し出せません。
勝手に作った言い回しだと思われるのはイヤなので例証しなければ、とネットで検索してみると、日本野球機構オフィシャルサイトに「サヨナラ二塁打を得るために」というコラムがあるのを見つけました。文中でも「打者が二塁打を得るためには云々」という文言があります。NPB公式記録員の方が執筆されているそうで、心強い味方を「得」ることができました。「二塁打を得る」が適正な表現なら、単打すなわち「ヒットを得」るも当然認められるはずです。ある程度内輪的な語法なのでしょうか。
ちなみに、英語ではヒットを打つことを「get a hit」といいます。直訳すれば「ヒットを得る」。いうまでもなく野球は舶来ものですし、もしかしたらこの直訳から来ているのかもしれません。
いずれにせよ、ホッとしました。

最後、「およそ焦らぬ」の「およそ~(打ち消し表現)」は「まったく~ない」を意味し、個人的に好きなことばづかいです。
心憎いまでの冷静さ、それはイチローさんを特徴づける最大の要素といえるのではないでしょうか。

冒頭でも記したとおり、すでに大谷翔平選手でかなパズルを作成しています。
同じく野球選手を描きながら、重なる語句が1つもありません。
2つの作品を見比べることで、このことば遊びの面白さや日本語の豊かさを感じていただければ嬉しいです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました