- 抜け殻を捨て こぞりつんざく 蝉の音まめに 揺るぎない 飛ぶもあわれ 用果たし終え 滅び止む 地へ
- ぬけがらをすて こぞりつんざく せみのねまめに ゆるぎない とぶもあわれ ようはたしおえ ほろびやむ ちへ
抜け殻を捨て、こぞってつんざく蝉たちの音。まめに鳴いて揺るぐことがない。飛んだりするのもあわれ束の間、一生の用を果たし終えれば滅んで声も止む。そうして大地へ還っていく。
夏の風物詩、蝉です。
この時期、家の周りの木々では蝉たちが日がな1日鳴き通しです。大合唱になると暑さも助長されてたまりません。この喧噪については「五月蝿い」ではなく「八月蝉い」と字をあててもよさそう。
そんな鳴き声を浴びていたある日の夕方、「つんざく蝉の音」の句が浮かんだので書き留めておき、後日作成しました。
いざとりかかったら見る見るうちに進み、わずか15分ほどで完成。久々の即興作であることに加えて出来も申し分ありません。
うれしいのはもちろんですが、この水準の作品がこうもあっさりできると拍子抜けというか、いつもの苦労はなんなんだろうという妙な空しさが生まれます。とりわけ前回苦汁をなめたこともあるかもしれません。どちらも運の絡むかなパズルがゆえ、ということなのでしょうか…。
内容と語法について、今回は順序を気にせずお話ししたいと思います。
あらかじめ用意しておいたキーワードはさきほど述べた「つんざく蝉の音」のほか、蝉のイメージに欠かせない「抜け殻」です。上手く内容に結び付けられるだろうかという不安をよそに、劈頭をいい具合に飾ってくれました。
作り始めてほどなく選び出したのが「あわれ」。蝉は命のはかなさの象徴としてとり上げられるからです。
同じことの裏返しで、地上で過ごすわずかな期間を懸命に生きる姿も語られます。これは意図したというより組み合わせの結果ですが、その様子を「まめに 揺るぎない」で表すことができました。
「地へ」は訳にある比喩的な意味合いとともに、生を全うして力尽き、地でひっくり返る蝉たちの具体的な有り様も含意しています。静けさが勝るころになると、暑さも和らいで季節の移り変わりが実感されますよね。
「つんざく」は好きな表現ですが、ふだんそう用いる場面がありません。ときに近距離で耳にする蝉の鳴き声はけたたましいことこの上ないけれど、まあそのおかげで「つんざく」を使うことができたし自作で上位に位置する作品も増えました。なにより、いまも聞こえてくるこの音こそが彼らの生命の躍動にほかなりません。こうして記事を書きながら改めて蝉に思いを馳せると、八月蝉い(!)のもほんの一時期のことだと我慢できそうです。
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