便利さレア

  • ネット世を絡め 便利さレア 指駆使で ゴチソウ得るわ from スマホ 抜け出せないや 身は置き物に
  • ねっとよをからめ べんりされあ ゆびくしで ごちそうえるわ ふろむすまほ ぬけだせないや みはおきものに
  • インターネットは世界中をくまなく絡め、その便利さはレアだ。指を使いこなせば色々なゴチソウが得られるよ。もうスマホから抜け出せないや。そして利便性という名のネットに絡められて身体をますます動かさなくなり、身は置き物のようになるね。

ネット社会です。

作成について。
この作品を作るにあたり、キーワード「ネット」によって2つの事柄を絡めようと考えました。
まずは世界を絡めること。
「ネット」の原義は「網」です。また、正確には異なるもののふだんほぼ同じような意味合いで用いられる「ウェブ」の原義は「蜘蛛の巣」です。これらはいずれも魚なり虫なりを絡め捕りますよね。であるならば、世界中を隅々まで覆い尽くしたインターネットは、言わば世界を絡め捕ったということができるでしょう。これが1つ目で、初句でそのままに表現しています。
2つ目は、われわれ人間を絡めること。
ネットをインフラにしたパソコンやスマホなどの文明史的画期をなす便利な機器が登場したことで、それまでも運動不足になりがちだった現代人はいっそう身体を使わなくなりました。つまり、身体があたかも目に見えないネットで絡められて動けないかのよう、というわけです。語法のところでご説明しますが、この点は尾句「身は置き物に」で表すことができました。

ところで、若いころから掛詞のようなダジャレが好きで、かなパズルでもことばの掛かった作品をこれまでにいくつか作成しています。
とはいえ、その大半は作成途中あるいは完成後に、気づいてみたら掛かっているという具合でした。このことば遊びの条件を考えればお分かりのように、ことばづかいを含めて意味内容を無理なく整えながら、なおかつ修辞にまで目を向けるのはなかなかに困難なこと。ごくふつうの日本語表現にまとめ上げることさえ容易ではありません。
でもかなパズル作りに慣れてきた余勢を駆って、今回はあえて意識的に挑戦してみたのです。
結果、ある程度狙い通りになったと思うのですが、いかがでしょうか。

語法と内容について。
「便利さレア」の「レア」は「rare」で、「稀な」。カタカナ語として定着しており、日常的に「この時計はレアものだね」などと使われるでしょう。
「指駆使で ゴチソウ得るわ」の「ゴチソウ」は比喩表現なのでカタカナにしました。食べ物に限らぬさまざまなモノや情報を、「指」を「駆使」するだけですぐ手に入れられる贅沢さ。一昔前では考えられなかったことですし、かつてのどんな王様でもまったく及びません。
「from スマホ 抜け出せないや」は「we can’t escape from ~」をイメージしています。余りやすい「ふ、む、ろ」からなる「from」はいつか採り入れたかった語です。視覚的な印象を考えて「フロム」ではなく英字のままにしましたが、外国語も混在させられるのは日本語表記の自由度の高いところですね。
最後の句「身は置き物に」に関して、動かさない身体をどう描くかあれこれ組み合わせを試行錯誤していたところ、中盤辺りで「置き物」を見つけ出しました。動かないものの喩えとして違和感がないと思います。

やや風刺めいた内容になりましたが、現代のネット社会を軽々に批判するつもりはありません。ネットのない世界を想像するのはもはや不可能に近いことです。
ただ、じっとしたままパソコンやスマホを長時間使用することが身心の健康にとって望ましくないのはどなたもお感じになっているでしょう。目の疲れや視力の低下、頭痛や肩こりといった諸症状はいずれも身体が凝り固まることで引き起こされる問題です。また、スマホ依存症は精神が絡められ動けなくなった状態という言い方もできるかもしれません。
生活上不可欠な場合は別にして、ネット環境が失われても “なければないで構わないよ” と平然としていられる、そういった心持ちはつねに保っていたいものです。

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