無二の内田氏

  • ことばづかい 無二の内田氏 帆を上げ水面 滑り行く舟さ 引き寄せられ 論終わるまで 止め得ぬぞ
  • ことばづかい むにのうちだし ほをあげみなも すべりゆくふねさ ひきよせられ ろんおわるまで やめえぬぞ
  • ことばづかいが無二の思想家・内田樹さん。氏が打ち出した文章は、帆を上げて水面を滑り行く舟のようにスイスイ読み進められるのさ。いったん読み始めればその文体にグイグイ引き寄せられて、1つの論説が終わるまでは読むのを止めることができないぞ。

思想家の内田さんです。

人気の文筆家として著名な方ですが、最大の要因は魅力的な文体でしょう。
難解な哲学の話でも複雑な政治の話でも、氏の手にかかるとスラスラ読み進んでいける。いたって真面目な論説であっても肩肘張らずにいられる。どんどん引き込まれ、気づけばひと区切り読み終えている。
内容が平易というわけではありません。難解なものは難解ななりに、複雑なものは複雑ななりに、とても理解しやすい形で論が展開されるので、読み手に負担がかからないのです。
抽象的な物言いになるけれど、ことばづかいのリズムというか呼吸というか、そういったものが軽やかで滑らかだから読んでいて心地がいい。「リーダブル」という形容がピッタリです。
また、例えが分かりやすいこと、ふだんあまり見かけない熟語が出てきても多くは文脈から意味が自然と類推できるよう巧みに配置されていること、なども読みやすさに寄与していると感じます。

内田氏の扱う話題は多分野にわたり、たいていは考え方がユニークで、ありきたりに感じるものがほとんどありません。”なるほど、そういう捉え方があるのか” と啓発されることしばしばです。
思想についてどう評価するかは人それぞれでしょう。私もご意見の全てに諸手を挙げて賛同するわけではありません。
ただ、”ま、それはひとまず置いといて” という感じで、とにもかくにも氏の書かれたものを読むこと自体が楽しい。どれほど優れた考えでも興味をもってもらえなければ始まらないのだから、その点でも主要な媒介となる文章がリーダブルであることは思想家として大きな武器といえるでしょう。

それにしても、同じ日本語なのにどうしてこんな魅力的な文体を紡ぎ出せるのでしょうか。努力だけではいかんともしがたいものを感じざるを得ません。
内容によらず文章そのもので読みたくなる物書きとしてほかに思い浮かぶのは、大好きな樋口一葉を含め数人だけ。
最近は読む機会が減っているけれど、私にとっては純粋に楽しい読書体験をもたらしてくれる貴重な方です。

語法と内容について。
タイトルにもなっている2句目「無二の内田氏」の「内田氏」は、「打ち出し」と掛詞になっています。昨今はワープロで著述する人のほうが多いですよね。
「帆を上げ水面 滑り行く舟さ」は、氏の文章の読みやすさを水面を流れるように帆走する舟に例えた比喩表現です。われながらけっこういい感じだと思うのですが、いかがでしょうか。
かなパズルということばの扱いに厳しい制約の課されたことば遊びで、掛詞と比喩2つの修辞を盛り込むことができ、個人的に満足度の高い一作になりました。

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