- 「今世におられぬ」 永遠を誓う 二人は泣き 死へ臨む 滅びゆくまで 熱愛冷めず 燃え焼ける身よ
- こんぜにおられぬ とわをちかう ふたりはなき しへのぞむ ほろびゆくまで ねつあいさめず もえやけるみよ
「もうこの世にはいられない」――永遠を誓う二人は泣いて死へ臨む。滅びゆくまで彼らの熱愛が冷めることはなく、その熱愛のように激しく燃え、焼けていく身だよ。
心中です。
江戸時代から昭和初期の心中に関する記事を読む機会があり、かなパズルで作成してみたいと思い立ちました。
さまざまな理由で現世に生きることを諦めた男と女が、来世で結ばれることを願って命を絶つ。
必ずしも相思相愛でない場合、また同性同士の場合もあるようです。しかしながら、心中といえば近松門左衛門『曾根崎心中』に代表される男女の悲恋という構図が分かりやすいでしょう。
昨今のいわゆる無理心中はかつての心中と性格を異にする場合が多いと感じられ、色恋に根ざした心中を耳にすることもほとんどありません。
そのため、作成するさいも和装が一般的な時代をイメージしました。
語法と内容について。
「今世におられぬ」は口語としてきちんと通じることばづかいだけれど、やや古めかしいですよね。厳しい制約下にもかかわらず気づくと作風に見合った表現がなされているのは、幾度となく経験しているかなパズルの不思議です。
『曾根崎心中』のクライマックスでも徳兵衛とお初の「二人は泣き」濡れています。覚悟を決めたとはいえ「死へ臨む」わけですから、いろんな感情がないまぜになって溢れ出すのは当然のことかもしれません。
「熱愛冷めず 燃え焼ける身よ」に関して。
「熱愛」は序盤で拾い出しており、中盤に「燃え」と「焼け」を見つけたことで、訳に示した通りこれらを比喩的に絡めた内容にしようと思いつきました。
もちろん心中を美化するつもりはありません。焼身自殺はとりわけ苦しいうえに結果も凄惨でしょうし、焼身による男女の心中例は私が読んだ記事のなかで1つだけです。
物語的な悲劇を描くための修辞表現とご理解ください。
コメント