無常・泡・夢

  • 平家滅び 兵散りて 女臥す削ぐ 無常・泡・夢 変えられぬ穢土 起きまた寝 濁る身居させよ
  • へいけほろび つはものちりて をんなふすそぐ むじゃうあわゆめ かえられぬゑど おきまたね にごるみゐさせよ
  • 権勢を極めた平家は滅び、男たちは死に、残された女たちは泣き臥したり出家したりした。『平家物語』が教えるとおり、無常であり泡のように消え夢のごとくはかない、変えることのできぬ辛い現世ではあるけれど、起きては寝てと、煩悩に囚われた身のまま生きていきなさい。

『平家物語』を題材にした作品です。

作成について。
冒頭の有名な文句「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」に示されているとおり、無常観がこの物語の主題なので、「無常」を必須のキーワードにしてスタートしました。
4句目までは比較的すぐに定まったものの、そこからがつづきません。日をまたぎながら試行錯誤し、要したのは都合4日。
4日目に「かえられぬ」「おきまたね」の組み合わせを見出した時点でも、まだ完成できる見込みがありませんでした。それが、寝しなに軽い気分で余ったかなを眺めていたら「にごる」が見つかり、残りでひねり出した「ゑど」および「みゐさせよ」も文脈に適するよう組み込むことができる。ということで、ようやくでき上がりです。

語法について。
「女臥す削ぐ」の「削ぐ」は剃髪する、つまり尼になることです。当時の貴族社会において、辛い現実に悩む女性が出家するのはよくあることでした。そうする以外に逃げ場がなかったのかもしれません。
「穢土」は「けがれたこの世」。扱いに困る「ゑ」を含む語として使用したいと思っていました。
「濁る」は「煩悩に囚われる」。
「削ぐ」「穢土」「濁る」のいずれも、仏教的なことばという点で無常観にそぐっているといえるでしょうか。

「起きまた寝」は現代でも「起き伏しを共にする」というように、日々を送ることです。

今回は全体を通してほぼ現代口語の感覚で理解できることばづかいになり、文法的な説明を要するところはないでしょう。
念のために1つだけ、「変えられぬ穢土」の「変え」はヤ行下二段活用動詞「変ゆ」の未然形です。

ところで、少しばかり理屈っぽい、説教じみた内容になりました。
むろん意図的にそうしようと考えたわけではなく、また考えてできることでもありません。「あ~ん全てのかなを過不足なく用いる」厳しい条件下で、文語として整った表現-意味内容にするべくかなを組み合わせた結果です。
この点を考慮に入れてご覧になり、作り手自身もどんな内容になるかが予測できないかなパズルということば遊びの、面白さや魅力を感じていただければと思います。

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