山聳え・改

  • 山聳え 尾の上に雲寝 風吹き下ろし 騒げる鳥居 梢倦み 葉露垂れぬよ 愛でなむ地 本意あらん
  • やまそびえ をのへにくもね かぜふきおろし さわげるとりゐ こずゑうみ はつゆたれぬよ めでなむぢ ほいあらん
  • 山がそびえ、頂きにはそれを枕に寝ているように雲がかかっており、風が吹き下ろしてくる。――その風に合わせて下のほうに目を転じると――楽しそうに騒ぐ鳥がとまっているのを梢がいやがり葉露(涙)が垂れていることだよ。ああ、大いに賞賛すべきこの地は期待通りというものだろう。

山聳え」の改訂版です。

オリジナルはつぎの通りでした。 山聳え 尾の上に雲寝 風吹き下ろし 騒げる鳥居て 梢倦み 葉露垂れぬよ 目路なむ本意あらん なぜ変更したかといえば、最後の「目路なむ本意あらん」に関して、最近読んだ書物で気になる記述を見つけたからです。それは、係助詞「『なむ』は不確実の意を表す助動詞『む・らむ・けむ・まし・じ』を結びとしない」というものでした(小田勝『古代日本語文法』ちくま学芸文庫、2020年、312頁)。
やや専門的な知見だしわずかながら例外もあるらしく、かなパズルというただでさえ条件の厳しいことば遊びでそこまで神経質になる必要はないのかもしれません。けれど自然な古文を目指す私としては、できる限り文法の規範に則って作成したい。ということで手を入れることにしたのです。

大枠を変えるつもりはなく、尾句だけに焦点をあてて臨みました。
「本意あらん」はまとまった文句なのでそのままにしようと考え、残った「ち、な、む、め」で改めて文句を作ることに。しかしながらさすがにこの4文字だけでは上手くいきません。そこでほかの句から不可欠でなさそうな文字を探すと、4句目の「て」と6句目の「よ」が。いざ、これら6文字で試行するなか、もとの4文字に「て」を加えた「愛でなむ地」を見出して完成したのが本作品です。
ちなみに、きれいな七五調に整っているわけではありませんが、改変により7文字×4、5文字×4に揃いました。

内容に大きな違いはないので、全体の理解については訳および旧作の解説をご覧ください。
以下では一部装いを新たにした最後の箇所、「愛でなむ地 本意あらん」のご説明を。
まず「愛でなむ地」を品詞分解すると、ダ行下二段動詞「愛づ」の連用形「愛で」+ 完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」+ 当然の助動詞「む」の連体形「む」+ 名詞「地」。助動詞「む」のまえに完了の助動詞が付くと、「む」のもつ意味が強調されます。したがって「愛でむ地」だけでも「賞賛すべきこの地」になるのが、さらに強められるため、訳では「大いに」を加えました。
「本意あらん」の見た目は旧作と同じです。でも変更によって係助詞を受けることがなくなり、形はそのままだけれど無事(?)に「ん」が終止形になりました。

一通り完成していた作品に手を加えるのは気の進むものではありません。変更が変更を呼び、泥沼状態に陥る可能性も考えられるからです。
幸いなことに予定していた最低限の部分だけで済みました。内容的にも心情をより表現することができ、改善になったのではないかと思います。
それにしても、部分的に組み替えることでまた異なる図柄が現れるなんてふつうのパズルではあり得ないでしょう。かなパズルならではの魅力ですよね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました