無音の世界

  • 手袋をはめ さあ外へ 雪化粧に 学び舎塗られる 轍も見えず 無音の世界 ほっこりね
  • てぶくろをはめ さあそとへ ゆきげしょうに まなびやぬられる わだちもみえず むおんのせかい ほっこりね
  • 手袋をはめ、さあ外へ。雪化粧にかつて通った学び舎は白く塗られているし轍も見えない。そんな一面雪に覆われた無音の世界にほっこりだね。

雪景色を描きました。

昨冬とは打って変わり、各地で大雪に見舞われています。
落ちてきた雪の重みで死傷するなんて、5センチも積雪すれば大騒ぎするような私の居住地では考えられません。雪かきもほんとうにたいへんな作業でしょう。
そういう実生活上の怖さや苦労を知らないがゆえの、都合のいい面だけを切りとった内容かもしれない。でも、その素晴らしさは確かな事実であり、雪国の人が味わえる大きな魅力なのだと思います。

作成について。
「無音の世界」と「雪化粧」をキーワードにスタート。途中で「轍」を見出し、終盤に「学び舎」を見出し、どちらともなんとか組み入れたいと悪戦苦闘。苦労の甲斐あって、すべてを盛り込むことができました。

語法について。
順序は変わりますが、タイトルでもある6句目「無音の世界」から。
雪が降り積もるとしんとした独特の静謐感が漂います。あの静けさはえも言われぬ雰囲気ですよね。科学的に見れば雪が音を吸収するからということになるのでしょうが、そんな理屈は野暮というもの。雪景色を描きたいと考えたとき、ほどなく浮かんだのがこの「無音の世界」でした。
静けさを表すすてきなことばには「しじま」があります。かぶっている「し」を繰り返し符合を用い「しゞま」とすることで使用してもよかったけれど、「雪化粧」ともぶつかるので止めにしました。
その「雪化粧」もまた美しい表現で、先人のセンスを感じます。ただし最初に思いついたのが雪景色だったのを、それ自身「き」が重複しているから雪化粧に変更しました。
「学び舎塗られる」は、そんな雪化粧と「化粧――白粉――を塗る」に掛けたもの。「学び舎」という趣きのあることばをどうにか使おうとあれこれ組み合わせを考えていて捻り出されました。これは雪景色ではなく雪化粧だからこそ可能な物言いです。ことばに厳しい制約があるはずなのに、不思議とこんな組み合わせが生まれて上手くいく。かなパズルの妙ですね。
「轍」も情趣ある表現で、また雪景色とセットになった情景です。消極的な使われ方になったけれど、登場させることができてうれしい。
「ほっこり」はある時期からよく耳にするようになりました。ネットで調べると古典にも見られるし、方言としていくつかの地域で用いられてもいるようですが、現在のようなオノマトペ的な使用はされていなかったみたいです。2003年刊『暮らしのことば 擬音・擬態語辞典』(山口仲美編、講談社)にも収録されていません。でも「ほっこり」と耳にすると、温かな感じのイメージが自然に湧いてくる。新しいものでも意味がおおよそ想像できてしまうから、オノマトペっておもしろいです。

ところで、完成したあとにふと「無音」が気になって手持ちの辞書を開いてみると、なんと載っていない。
一瞬ドキッとしたけれど、そもそも聞きなじんでいるから思い浮かんだわけで、ネットにはたくさん出てくるしパソコンで打つときちんと変換される。念を入れて愛用のガラケー(!)に付属の辞書で調べてみても、しっかり登録されていました。
比較的最近のことばなのでしょうか。
ちなみに、同字でも異音の「ぶいん」になると意味がまったく変わりますね。

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