鬼と化す

  • 罪なく殺され 鬼と化す 魂消侘びても いや許せぬぞ うち屠り 無念を晴らし 雨の夜へ消え
  • つみなくころされ おにとかす たまげわびても いやゆるせぬぞ うちほふり むねんをはらし あめのよへきえ
  • 罪もなく殺され、鬼と化す。目のまえに姿を現すと相手は魂消て侘びるけれど、いや許すことなどできないぞ。うち屠って無念を晴らし、鬼は雨の夜へと消えていった。

鬼の復讐劇です。

作成について。
まったく関係のないテーマで作っていたところから路線変更し、鬼の物語が生まれました。
鬼といえば、現在マンガ『鬼滅の刃』がたいへんな話題です。原作もアニメも見ていないけれど、自然と目に耳に入ってくる。その潜在的な影響もあったのでしょうか。
それはさておき、作り手である私自身 “どうなるんだろう” と展開の行方を見守りながら進めていきました。組み合わせの関係から中盤までの想定とはおよそ正反対になったラストも、これはこれでらしいものになり、満足の出来です。

ところで、日本人であればだれもが鬼を知っているし、鬼は怖いものという基底的な認識も共有されています。でも、明確に概念化のしにくい存在といえるでしょう。
鬼に関する書物として名高い『鬼の研究』ではその性格が大きく5つに分類され、5つ目としてつぎのような説明がなされていました。

変身譚系とも名づくべき鬼で、その鬼への変貌の契機は、怨恨・憤怒・雪辱、さまざまであるが、その情念をエネルギーとして復讐をとげるために鬼となることをえらんだものである。

作中の鬼はズバリこのタイプですね。

現代ではかわいらしい、ユーモラスなイメージの強い印象があります。そのようにキャラクター化、ビジュアル化されることが多いからでしょう。
本文の背景には内容にそぐった昔ながらの、文字通り鬼気迫るものを選びました。

内容について。
物語るといっても、かなパズルではかな46文字しか用いることができず、表現がギリギリまで削られることも少なくありません。そういう場合になにを描き出せばいいかといえば、ストーリーの骨子ということになるでしょう。
このお話は「罪なく殺され 鬼と化す」が導入でした。さきほどご紹介した通り「変身譚系」の鬼であり、日本で生まれ育った人がこの2句を読めば「復讐」の語が自然と頭に浮かぶでしょう。昔話やマンガや小説などでよく見聞きする典型的なパターンだからです。
したがって、3句目で「魂消侘びても」と大きく場面転換しても話は通じるはずです。化けた鬼がなにをするか。温泉に浸かってゆったりするはずはないし、コンビニで買い物するはずもない。復讐するためのもとへ向かうのが常識的な文脈です。そして、その暗黙的了解の流れに沿って「魂消侘びても」とつづくのだから、「魂消」て「侘び」るのは仇以外に考えられません。無関係の第三者が唐突に登場してはそれこそ不自然というものでしょう。
このようにかな50文字弱という限られたなかで物語を描くには、文脈から読み手が無理なく行間を埋められる部分は可能なかぎり省くことが大切です。と同時に、原文だけで筋を最低限押さえられるように骨子となる語句を上手に選び出し、それらを適確に配列することが肝要でしょう。
ちなみに、補足説明の役割も兼ねて、私は口語作にも訳を付しています。適切な理解のためにどうしても背景知識が必要となる場合があるからです。注意すべきは、訳はあくまで肉付けということ。くれぐれもそちらが骨子にならないよう気をつけねばなりません。

語法について。
「魂消侘びても」は少し読みづらいかもしれません。「たまげる」はもと「たまぎる」で、どちらも「魂消る」と書きます。魂が消えるだなんて、字面から驚くさまがありありと伝わってくる。殺したはずが鬼となって現れた、それこそ魂消る思いがすることでしょう。ということで、作品の雰囲気を考慮して漢字表記にしました。
「うち屠り」の「うち」は動詞の頭に付く接頭語で、意味を強調します。これまでに口語文語で1回ずつ使用し、これで3回目。個人的に好きな表現ですが、闇雲に用いているわけではありません。憎んでも憎み切れない相手をいままさに葬り去る、そんな復讐シーンにピッタリですよね。

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