思わぬ知らせ

  • 結婚すると 思わぬ知らせ 胸を裂きゆく いまは部屋で うち飲め酔え ひそかに涙 溢れボロリ
  • けっこんすると おもわぬしらせ むねをさきゆく いまはへやで うちのめよえ ひそかになみだ あふれぼろり
  • あの人が結婚するという思わぬ知らせが胸を裂きゆく。いまは部屋でとにかく飲んで酔ってしまえ。こっそり泣こうとするのだけれど、涙がボロリと溢れる。

失恋の情景を描きました。

かなパズルを口語で作るようになってほどなくの作品です。
もともと文語で作っていたこともあり、最初の数作は納得のいく出来にならなかったけれど、少しずつなじんでいき本作を完成させたことで、難事とされるこのことば遊びを口語でもきちんと仕上げられるという手応えがつかめました。そういう意味で思い入れの深い一作です。

作成について。
ある日「結婚すると 思わぬ知らせ」のフレーズがポンと浮かび、そのあとの展開はまったく考えずにこの2句から始めることにしました。
内容を多少なりとも想定している場合とは異なり、自分でも先行きがとんと読めません。すでに選び出したことばと新たに選び出すことばとが絡み合って、同時一体的に文脈が生成されていきます。”どうなるんだろう” と作り手でありながら他人事のように感じている、ちょっと面白い感覚です。
ただし、かなパズルは全てのかなをただ使い切ればいいというわけではありません。語句を適当に拾い出して並べるだけなら誰にでもできること。そうではなく、全体を通して明瞭に意味をなす日本語表現にまとめ上げなければならないから、難しい。そのためには1つのかなも疎かにせず、工夫を尽くして巧みに組み合わせることが必要です。ときに頭のなかが錯雑として収拾がつかなくなるけれど、その過程を乗り越えて始めから終わりまで瑕疵なく整えるのが、このことば遊びの醍醐味でしょう。
残念ながら、試行錯誤のすえに悲しいお話になりました。

語法について。
「うち飲め酔え」の「うち」は動詞の頭につけて意味を強調する接頭語。そう頻繁に用いられることはないですが、「うち捨てる」や「うち震える」など、要所で表現を引き立てる個人的に好きなことばづかいです。
最後の「ひそかに涙 溢れボロリ」に関して、訳に加えもう少し補足説明を。長じるにつれ、人前であるなしにかかわらずあからさまに泣くことが気恥ずかしくなります。本作の主人公も自室でひとり「ひそかに涙」するつもりだったのが、でもやっぱりこらえきれず「溢れ」て「ボロリ」ということです。「ひそかに涙 “も” 溢れボロリ」としたほうが語法としてはより明示的で分かりやすいのでしょう。しかしながら、「も」はキーワードで使用しているため動かせませんでした。それでも、「ひそかに涙 溢れボロリ」だけで訳のように行間を補って解することは不自然でないと思います。

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