思わぬ知らせ

  • 結婚すると 思わぬ知らせ 胸を裂きゆく いまは部屋で うち飲め酔え ひそかに涙 溢れボロリ
  • けっこんすると おもわぬしらせ むねをさきゆく いまはへやで うちのめよえ ひそかになみだ あふれぼろり
  • あの人が結婚するという思わぬ知らせが胸を裂きゆく。いまは部屋でとにかく飲んで酔ってしまえ。こっそり泣こうとするのだけれど、涙がボロリと溢れる。

失恋の情景を描きました。

かなパズルを口語で作るようになってほどなくの作品です。
もともと文語で作っていたこともあり、最初の数作は納得のいく出来にならなかったけれど、少しずつなじんでいき本作を完成させたことで、難事とされるこのことば遊びを口語でもきちんと仕上げられるという手応えがつかめました。そういう意味で思い入れの深い一作です。

作成について。
ある日「結婚すると 思わぬ知らせ」のフレーズがポンと浮かび、そのあとの展開はまったく考えずにこの2句から始めることにしました。
こういう場合、自分でも先行きがとんと読めません。すでに選び出したことばと新たに選び出すことばとが絡み合って、同時一体的に文脈が生成されていきます。”どうなるんだろう” と作り手でありながら他人事のように感じている、ちょっと面白い感覚です。
ただし、これは言語的に厳しい制約の課されたことば遊びであり、語句を拾い出してただ並べていくだけではとうてい筋の通った内容になりません。あ~んのかな46文字を過不足なく用いるという極めて身動きのとりにくい状況下で、ことばづかいと文意の両方をともに無理なく無駄なく整えなければならないのだから、工夫を尽くして巧みにかなを配置する必要があります。ときに頭のなかが錯雑として収拾がつかなくなるけれど、そこを乗り越えて整合的にまとめ上げるのがこのことば遊びの難しさであり醍醐味でしょう。
残念ながらというのでしょうか、試行錯誤のすえに悲しいお話になりました。

語法について。
「うち飲め酔え」の「うち」は動詞の頭につけて意味を強調する接頭語。そう頻繁に用いられることはないですが、「うち捨てる」や「うち震える」など、要所で表現を引き立てる個人的に好きなことばづかいです。
最後の「ひそかに涙 溢れボロリ」に関して、訳に加えもう少し補足説明を。長じるにつれ、人前であるなしにかかわらずあからさまに泣くことが気恥ずかしくなります。本作の主人公も自室でひとり「ひそかに涙」するつもりだったのが、でもやっぱりこらえきれず「溢れ」て「ボロリ」ということです。理想をいえば「ひそかに涙 “も” 溢れボロリ」としたほうが語法としてはより明示的で分かりやすいのでしょうが、「も」はキーワードで使用しているため動かせませんでした。ただ、「ひそかに涙 溢れボロリ」だけでも、訳のように行間を補って解することは不自然でないと思います。

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