- 親の仇呼び 侍まみえ わずか睨め そろり抜けば 刹那―――ボトン 首を手に持ち 降る雪しぐれ
- おやのあだよび さむらいまみえ わずかねめ そろりぬけば せつなぼとん こうべをてにもち ふるゆきしぐれ
親の仇を呼び付けて侍は相まみえ、瞬時睨め付ける。そろり刀を抜けば、刹那―――ボトン。拾い上げた首を持っていると、空からは雪しぐれが降ってきた。
とある時代劇のクライマックスシーンです。
侍を主人公にした物語を作ろうと考え、当初は文語で作成したものの、昨今は文語になじみのある方が多くありません。そこで、口語で作り替えることにしました。
結果的に文語作より整った内容になり、出来には満足しています。
語法と内容について。
「そろり抜けば」の「そろり」は滑らかな動きを表します。腰を落としグッと踏ん張って構え、力に任せて抜き付ける、というのはいかにも分かりやすい動作だけれど、それは武の世界で「居着き」とされる三流の身体運動です。一流の武芸者は力みなく気配なく、水が流れるように淀みなく動き、相手が反応できぬ間に事を終わらせる。そんな表現を探っていて見つけたのが「そろり」で、余りやすい「そ、ろ」を含む点でも格好のことばでした。
ところで、抜いたのが拳銃でなく刀であることは、示さずともお分かりでしょう。つづく「刹那――ボトン」の「ボトン」にしても同様で、時代ものの小説やマンガでボトンと落ちるのは首というのが相場です。そして、その流れを受けて「首を手に持ち」へとつながっていく。
かなパズルはことばの扱いが不自由ななか、しかもかな50弱という字数で、きちんと通じる表現-意味内容にまとめ整えねばなりません。そのため、文脈から無理なく理解・類推できるものを適確に省略することが、作成上しばしば重要なカギを握ります。
最後、「降る雪しぐれ」の「雪しぐれ」は完成するうえでのキーポイントでした。雪と時雨がくっ付いていることからおおかたご想像がつくとおり、その中間であるみぞれを意味します。とはいえ私の語彙になかったことばであり、手持ちの辞書にも載っていません。組み合わせに苦渋するなか、なかば偶然ネットで発見しました。これがなければ仕上がっていたか分からないですから、現代文明サマサマです。
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